東南アジアの⾷に関するコラム

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珠玉の宝石を散りばめたような「ライスターフェル」

2023.07.25
2023年33号コラム
インドネシア料理の何十種類(通常17~30種類)をそれぞれ少しずつ小皿に盛り、テーブルの端から端まで並べたライスターフェル(注:オランダ語では「rijsttafel」(ご飯のテーブルの意))というビュフェ料理があるのをご存じだろうか?私は、大分昔(1980年頃)であるから、ベルギーのブリュッセルに仕事で4年間滞在したことがある。その頃オランダのハーグやアムステルダムは、車で2時間程度走って行けるので、日本から友人が来るたびにこのライスターフェルを食べに観光がてらオランダに出かけていた。
一つ一つの小皿は、ナシゴレン、ミーゴレン、ナシクニン、スープ、サテ、ルンピアスマラン、リソルス(野菜と牛肉のクレープ)、プルクデル、イカンペペス(スパイシー焼き魚)、スムル(ケチャップマニスで煮込んだ牛肉)、バビケチャップ(ケチャップマニスで煮込んだ豚肉)、クルプック、アヤムゴレン(インドネシア風の鶏唐揚げ)、ベベッブトゥトゥ(焼きダック)、スルンデン(スパイシーココナッツフレーク)、ルジャッマニス(フルーツサラダ)、ルンダン、テロールバラド(サンバルで和えた茹で玉子)、オポルアヤム(ココナッツミルクで煮込んだチキン)、ピサンゴレン(バナナの揚げ物)等でありどれも代表的なインドネシア料理であるが、本国インドネシアでは一度にこれだけがテーブルに並べられることはなかった。ライスターフェルは、インドネシアがオランダに植民支配を受けていた時代に、豊かな暮らしをしていたインドネシア在住オランダ農園主がご飯と何十種類以上の料理(肉カレー、魚、野菜、果物、酢の物など)を一度に出していたことが始まりだと言われている。その後、17世紀にアムステルダムの富裕層がインドネシア料理をライスターフェルとして食べ方を紹介した。オランダ植民地時代の終焉と共にライスターフェルは次第に途絶えてしまった。インドネシアにはあちらこちらを訪れているが、これらの料理は一品ずつ、屋台やレストランでごく普通に食べられる。が、このように一度に皿を並べているのは、現在オランダの少ないインドネシア料理のレストランぐらいだろう。(注:インドネシアの高級レストランやホテルで観光客向けにライスターフェルを提供していることもある。)
  私独自の偏見ではあるが、当時のオランダ富裕層は、自国の植民支配に対する権力を誇示するが如く、それが食卓にも反映させていたように思えてならない。食べきれないほどの料理を、テーブル一杯に並べ、それらの料理はどれも煌めく宝石のようであり、まるでオランダの権威の象徴である王冠のようであったのではないか。個人的な見解なので、それはさておいて、このような形で一度に料理を楽しむのも、時間をかけてインドネシア国内を観光旅行しながら、レストランなどで料理を楽しむのもどちらも結構。インドネシア料理は、それをたとえそれが屋台で食べたとしても、宝石のように極めて美しいことに変わりはないのだから。