東南アジアの⾷に関するコラム

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東南アジアで交錯する多種多様な麺文化

2023.06.19
2023年17号コラム
だいぶ前のことになるが、「彼とわたしの漂流日記(CASTAWAY ON THE MOON)」という韓国映画を観たことがある。主人公の男性が都会の中の孤島でサバイバルに挑み、ジャージャー麺を食べたくなると、それを作り出す。それまでのエピソードが、大変面白かったことを覚えている。麺(ヌードル)を精製する基本は、この映画を観るまでもなく、ごく単純に考えれば、何を材料としているか、それを粉状にして、その粉を水と混合し、つなぎ、平面状に作り変える。最後に仕上がりを念頭に、適切に切断し、ゆで上げ、味付けし、様々なトッピングをして食すということだ。東南アジアに行くと、この単純さの中に思いもよらない豊富な多様性(バラエティ)があるのに驚かされる。
タイや、ベトナム、カンボジアなどでは、主に米粉(ビーフン)を麺の原材料として使い、タイでは、最終段階で、切断を細く切るか、中太に切るか、太く切るかによって呼び方が異なるし、客の好みも分かれる。ベトナム麺を代表するフォーは、平麺であるが、スープを薄味の鳥ガラだしにするか、ビーフ味等にするかで、好みが大きく別れる。また、カンボジアは、ベトナム同様豊富な野菜を入れて、麺に絡んだ汁と肉と野菜のバランスを楽しむことが常だ。
  日本のラーメンでも、当たり前のように細麺、太麺があるのと同じことだ。日本ではチャーシューを麺と共に入れるが、丸いチャーシュー(煮込んだ肉の固まり)がフィリッピンで全国チェーンを展開する「チョーキング(将軍)」のラーメンに入っていたことに、初めて食べた時、感動した覚えがある。
現在、日本の伝統的なそばや讃岐うどんも、ラーメンに限らず、東南アジアに積極的な進出を果たしており、成功しているのを見ても、東南アジアの人々がいかに麺好きであり、こうした麺文化の交錯というか、交流を楽しんでいるのがわかる。マレーシア、シンガポール、インドネシアは、中華だけではなく、イスラム教の影響力が強かった地域でもある。ここでも、それぞれの文化を背景として、「麺」を中心とする文化は、その形、品(トッピングや調味料)、味を変え、大衆に受け入れやすいものとなった。
  東南アジアを旅することは、こうした多種多様な麺文化の交錯に裏付けられた食の多様性に向き合うことに他ならない、と思う。