東南アジアの⾷に関するコラム

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普通のインド人より更に貧乏旅行をした日本人

2023.07.20
2023年29号コラム
私は世果中を旅行したが、クイズ旅行番組のプロデューサーではないので、交通手段を選ばない。一番安価な交通手段は、やはり徒歩が多いが、自転車やバイクをレンタルしたり、タクシーをチャーターしたり、公共交通機関のローカルバス、電車、汽車、飛行機を利用したり、果てはロバやラクダに乗ることさえも厭わない。何しろ限られた時間内で目的地にたどり着き、帰ってこられる方法をその場で即座に考える。こうしてインドの無謀な旅行は始まった。インドの悠久な時の流れは、例えば汽車に乗ると、どこかも分からない平原のまっただ中で、汽車が止まったきり動かない。4時間待てども、5時間、10時間待てども、汽車は動かない。これでは、いつ帰れるのか、果たして日本に戻れるのかも分からない。こうした過酷な旅を強いられるのが、とてつもなく広陵としたインド大地の一人旅だ。
ともかく、私は数十年前、2箇月近くインド旅行に一人で出かけた。恐ろしく過酷な旅で、今思い出しても、ここで貧乏旅行は誰にもすすめられない。例えば、私は汽車の予約券を買うとき、親切な若者からすり被害にあった。それで予約もとることもできず、汽車に乗り込むと、普通のインド人なら一番安い寝台で寝られるのに、私は、床に新聞紙を敷いて寝た。夜中にごそごそとトイレから這い出て来る沢山のゴキブリに飛び起きた。寝られたものではない。(それでもいつしか寝ていたが!)
首都ニューデリーから、ジャイプール、アグラ等の都市をめぐり、しまいには日常の糧は、全てカレー、形は変わるが、全てカレー味。飲み物は、土器のカップに入れられた「チャイ」が当たり前になっていた。移動には汽車ばかりでなく、飛行機なんかも使ったが、あまりにもしつこい人力車だけは、意地でも使わなかった。道を聞けば、そこまでの道は工事で閉鎖されているから、自分の人力車ならそこを避けて通るから安全だと平気で嘘を言う。この世界で、まっとうなことを言う人間が果たして存在するのかいなと疑ってしまう。
バナラシで、有名な「久美子ハウス」にも宿泊した。数年前、テレビの報道
特集でこのゲストハウスを紹介していたが、かの「長渕剛」氏も宿泊したことがあるそうで、驚いた。朝起きると、顔の上をやもりがはっている。きっと彼も、そうだったのかと推測する。食事は、宿泊客皆で作る。だから宿泊代も極めて安い。オーナーの久美子さんは、私のことを既にお忘れだろうが、この宿舎だけは、皆で一緒に作る「日本食」だったので、大変感謝している。ガンジス河を見下ろす高台からの美しく静かな景色とともに、この時の食事のありがたさだけは何にも代えられない思い出として時々思い起こす。