東南アジアの⾷に関するコラム

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パクチー(香菜)に恋して

2023.06.08
2023年8号コラム
日本に昔、と言っても十数年前には無くて、今は一般のマーケットなら沢山出回っている野菜、果実などは多い。その分、我々日本人の食生活は、食べる野菜等の種類が増えて、豊かな食生活を送れるようになったということだ。例えば、マンゴー、ドリアン、キューウィーなどそうであり、パクチーもその一つだ。30年前の日本にパクチーがあったかというと、私にとっては名前すら聞いたことがなかった「魔法の葉っぱ」であった。
  海外を長くわたり歩いていると、パクチーは、ヨーロッパの朝市でも古くから売られており、また中南米やアジアにおいても料理の具材として古くから用いられている。私が、初めてパクチーにお目に掛ったのは、タイの首都、バンコックの路地裏の屋台料理店で、タイスキを食べた時のことであった。その時のことは余りにも衝撃的で、今でも鮮明な記憶にある。あれからもう30年が過ぎ去ろうとしている。今では、日本国内の農家でもパクチーが栽培されており、国内のエスニック料理店では必需品となっている。
パクチー(香菜)に恋して

パクチーを初めて食した時、失礼ながら、嘔吐しそうになった。その強烈で独特な味と芳香を持つ野菜は魅力的というより、ゲテモノ好きの人間が食するものだと感じられた。そこで冷静に考えてみた。タイの国では、ほとんどの人が、これを「美味しい」と言い、タイの国津々浦々で食されている。私はこれから、タイの国を北から南まで安旅行しようというのに、これが食べられないようで  は、この国で旅行どころか、生きてはいけない。それで、気持ち悪くなる自分を抑え、無理やり口に頬張った。嫌でも、食うぞと覚悟を決めた次の瞬間、パクチーが美味しく感じられた。もっと食べたくなった。しまいには、パクチーの無いタイ料理など、似非タイ料理だとさえ思うようになり、以後屋台を転々と食べ歩くうち、いつしか「もっとパクチーをいれてよ」と料理人のおばちゃんにせがむようになっていた。
日本に帰国すると、数年間はパクチーの味が恋しくなり、またタイに向かうという年月を経て、やっと、日本でも自由に食べられるようになったことを喜んでいる。そればかりではなく、自分が作る料理には、例えば、ハンバーガー、ラーメン、サラダなどなんでもパクチーを放り込んで、満足のゆくまで食べている。
私の口の恋人は、チョコ(カカオ)やそれ以外の食べ物ではなく、きっと「パクチー」が本命の恋人なのだろう