東南アジアの⾷に関するコラム

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シンガポールにおけるナイトメア(悪夢)

2023.07.23
2023年31号コラム
シンガポールには、仕事と遊びで何度か訪れている。その度にこの国の豊かで、瀟洒な世界を垣間見る気がして驚かされる。小さい国ながら、全てが整い、仕事だろうが観光だろうが、すべての欲求が完璧に満たされる。自分は結構、これまでに豪華な社会も見てきたつもりだが、いつもまだ別のこれ以上のものがある筈だと思っていた。ところが、シンガポールだけは別で、ここで全てが揃う。もうこれ以上は何もいらない、と私のような小市民を完全に納得させるから不思議な魅力があるとしか言いようがない。
さて、私がシンガポールで何を見たか、何を食べたか、何に感動したかという話である。とりあえず「食」のコラムという建前になっているので、ここに累計何日滞在したか分からないが、滞在期間中にほとんどのものは食べつくした。例えば、シンガポールで一番と言われている「高級寿司店」は毎朝築地(注:筆者が訪れた当時)から直行便で取り寄せる活きの良い寿司。日本で食べる高級寿司とまるで遜色ない。また、日本から直輸入した神戸牛のステーキ。中華のフルコース。こんなに高級なものばかりでなく、屋台同様のシンガポール中華、マレー料理、カレー料理とどれも絶品の料理ばかりで、町のアイスクリームから、ファーストフードのバーガーまで「食べ物天国」とはこういう何を食べても美味しい場所のことを言うのだろう。食事を楽しむなら、やはりシンガポールに行きなさい、と私は迷わず誰にでも推薦できる
次に、アトラクションであるが、USJのような遊ぶ場所は、何日遊んでも飽き足らないほどここにはある。これを書き出すと切りないくらいくらいだ。そして、仕事。民間のオフィス街は大抵超高層ビルにあり、どこのオフィスも広々と美しい。私はちょうどその頃の仕事の関係で、シンガポール市民防衛庁の施設を見学させてもらった。これとは別の施設は、なんと、一つの政府機関が、中にボーリング場からダンスホール、カラオケ等を楽しめるアミューズメント・ビルを運営しており、収益は全て、その機関の予算に充てられていた。
市民防衛庁には、一つの事例として、爆弾テロのような緊急事態の発生時の訓練場面を見学させていただいた。既に爆発が起こっていて、本場さながらの完璧な施設(注:ちょうど高層ビルの上階にあるバーの中で緊急事態が発生したとの想定)内で人命救助の訓練が実施されていたが、その迫力たるや、そこらの映画の類ではなかった。そうした全てを見させてもらった上で、私にとって、最も忘れられないものは、上記訓練の晩、市民防衛庁の職員の案内で訪れた「ナイト・サファリパーク」だった。   
ここのパークの迫力は、夜に闇夜を背景として繰り広げられる野生動物の生態を知る上で十分なものだ。例えば、目の前に虎の牙を剝きだして襲ってくる、もちろん、厚い透明ガラスで仕切られているが、その迫力足るや、それまでに散々美味しいものを食べてきた私が、逆に食べられる自分を想像するのに十分なものであった。この現実性の入り混じった際どさこそが、私にとっては「正(まさ)にシンガポールのナイトメア(悪夢)」だった。